『夢想と薔薇の日々 (Days of Rêverie and Roses)』は、あくまでもフィクションであり、実在する人物や事件とは一切無関係です。「夢想」(夢見る、想う)は個人が有する自由な権利ですが、現実は現実としてきちんと区別なさったうえでお読みください。くれぐれも混同されないよう、どうぞよろしくお願いいたします。

ある意味笑。
2017-05-XX新・オトコノコ事情2017

ちょっとした肌寒さを覚えて起きてみると、俺は薄い毛布を一枚かぶって、あとは素っ裸なのだった。
そういえば昨夜はヨシキと寝て、そのまま眠ってしまったのだ。

隣へ目をやると、ヨシキが布団にくるまって、暖かそうに寝息を立てていた。

───あれ?ヨシキもあのまんまなんだっけ?

そう思うと不安が走った。
何故かと言えば、ヨシキが昨夜のまま眠り込んだとしたら、最悪の事態もあり得るからだ。

昨日、俺は2回ほどヨシキの体内で射精した。
特に精液の量が多ければ、その刺激で───あまり言いたくはないのだけど───、腸の中のモノが一緒に漏れ出してしまう。
俺はうっかりして、ヨシキがセックスのあとトイレなりシャワーなりへ行ったのか見届けなかった。

その『最悪の事態』だけはやめてくれよ、と祈りながら、俺はヨシキの上の布団をズリズリと引っ張って、おもむろに彼の体から剥いでみた。

───よかった。無事だ。

シーツはどことなく湿っていたけれど、そこに、シミや汚れは見えなかった。

───ふぅ。

半分だけ布団を借りて、自分の下半身にかけてから、ヨシキをじっと観察する。
白くてなだらかな肩の女性的なラインのせいか、着衣のときのヨシキはいつももっと華奢に見える。
むき出しの彼の腕は、下手したら自分のそれより太いのではないかと思えるほど、硬く筋肉が引き締まってついているのだった。


―――・・・ ◇ ・・・―――


…ヨシキ起きろよ。


そうは言ってみたものの、ヨシキが容易に起きるはずもなく。


…さっさと起きないと、こどもの日終わっちゃうよ?


そうなのだ。
今日は5月5日、端午の節句。
ヨシキは昨夜から、例の如く「こどもの日の柏餅」を買いに行くのを楽しみにしていた。

俺は、彼の後ろからうなじにキスするようにして、ヨシキを抱きしめた。


…ヨシキ。起きて。

「…ん~……」

…柏餅、買いに行くんでしょ?

「んん、うん。。」

…早くシャワーとメシ済ませないと。…売り切れちゃうよ?布団も干さなきゃ。

「うん。。。トシ…くすぐったい/////」

…ちゃんと起きた?

「うん…起きた」


ひとまずヨシキの目も覚めたようなので、俺はさっきから気になっていたことを訊いてみた。


…ヨシキ、昨日。

「うん?」

…シャワー浴びなかったの?トイレは?

「行ってない、、、行ってないよ」

…なんで? 俺、2回も中でぶっ放しちゃったから……ヨシキ大変じゃなかった…?

「大変?って、何が?」

…後片付けというか後始末というか。。。ヨシキ、垂れ流してるんじゃないかと思って、今ビビっちゃった。

「後始末……ねぇ~。」


ヨシキはそこで一旦言葉を止めた。
それから恥ずかしそうに笑って、こう言った。


「全然問題ないよ。トシが出してくれたのなんて、ちょっと頑張って我慢してたら、、、もうカピカピのサラサラに乾いちゃったから♡」


気色悪いこと言うなよ、と流した俺に、ヨシキは思いもよらないことを口にした。


「ごめんね。…けど、トシがずっとおれの中にいてくれたらいいな、とか思って」

…ええ?

「これでおれがさぁ、女の子だったら、赤ちゃんできたかな~…」


どうしてだろう、今度は簡単に流せなかった。
俺は言葉に詰まった。

未来永劫、叶うことのない望み。
ヨシキの胎内で、何を生み出すでもなく干からびていった、俺の精子の群れ。

それでも、昨夜のヨシキは、その精液を排出することを拒んだのだ。
必死で、彼自身の中に留めようと。

健気で、切なくて───……。


…ヨシキ。なんか今、…弱気になってる。。。?

「弱気ぃ??」

…ヨシキが女の子だったら、、、俺困るし…、てか第一、今日は男の子のお祭りなんだし。

「やぁだトシ、冗談だよ~。トシがくれたやつ出しちゃいたくなかったのは本当。けど赤ちゃん欲しいなんて思ってないもん、だいじょぶだってばぁ~」


ヨシキの表情は明るく見えた。

俺は、静かにヨシキの腰を撫でて抱きしめた。
彼のお腹に顔を押し付けて、キスして。


…ヨシキ。。俺はいつもヨシキの中にいるよ。赤ん坊は無理だけど、あとは全部、あげるから。

「トシ?」

…だから。もうそうゆうこと、言わないで。……つらい。


自分でも、今の気持ちを何と呼べばいいのか、わからなかった。
ヨシキが俺を大切に想ってくれていることは、いやというほど伝わってきた。
けれど、彼のその感情を、どう処理していいのかわからない。


「あっははは、弱気なのはトシじゃん」


ヨシキに笑われてハッとした。
そうかもしれない、弱気なのは、俺だ。


「ね~トシ~!上に来てよ、そんなお腹の方にいないでさ。おれが抱いてあげる~。」



.。o○.。o○.。o○.。o○



俺はヨシキに言われるがまま、彼に身をゆだねていた。
ヨシキの腕の中は、大袈裟に言えば、熱かった。


「トシ~、早くしないと、もうお昼になっちゃうよね~」

…うん。

「ごはん、どうするの~?」

…その前に、布団干さなきゃなー。

「じゃあ起きる~?」

…起きたくない。だるい。

「ずっとこうしてる?」

…そういうわけにもいかないよね。


会話はしていても、話はちっとも進展していなくて。
それでも俺はじわじわと、ヨシキに癒されていくのを感じていた。


…柏餅、買いに行くんだっけ?

「それは行くよ~当然」

…水まんじゅうは食べないの?今年は。

「うん。今年は柏餅♡」

…そっかぁ。

「よもぎのがあったらそれにするんだ~、粒あんだっけ?」

…うん。。だったかな。


ヨシキがずっと、やさしく背中をトントンしてくれている。


…ねえヨシキ。

「ん~」

…まださー、このままでいい?少しだけね。ヨシキのこういうの、好き。

「眠くなったら寝ちゃっていいよ」

…うん。寝不足気味。

「昨夜頑張ってくれたもんね♡」

…頑張ってくれたって、別にヨシキのために頑張ったわけじゃなくて……俺の好き勝手しただけだよ。

「う~ん、、、そうかもだけど……、なんか、おれうれしかったの。トシが何回も、おれの中がキモチイイんだって言ってくれて」

…ん?いつだって気持ちいいよ? 俺伝えてないかなぁ。。。ごめん。

「いいのいいの!トシ昨日はほんと、よさそうだったもん」


だからヨシキは、俺の精液を洗い流したくなかったのかなぁと、俺は都合のいいように思ったりした。


…ヨシキ自身はどうだったの。そっちが大事でしょ。

「おれ~?おれはもう、、、え~と、昇天しないようにするので必死でした」

…それって、よかったってこと?

「も、ち、ろ、ん~!♡」


ヨシキが俺の背中をペチペチ叩いた。
照れ隠しなのだろうが、こちらから見れば単にかわいいだけなのだった。


…あー、ホントこうしてるの好きだわ。安らぐー。

「おれたち何年これやってるのかな~?裸の付き合いってやつ~」

…さあね。


返事をしてから、ふと思った。
今ふたりが裸であることは事実だけれど、こういうのは、普通で言ういわゆる『裸の付き合い』というのとは、意味が違うんじゃないか?

ヨシキはときどき、日本語が変だ。



□■□■□■□■□



背中をトントンしてもらっているうちに、甘い眠気が渦のように押し寄せてきた。
ヨシキの手のリズムは、決して規則的とは言えず……むしろ明らかに不規則だった。
きっと彼も眠いのだろうと思う。
一生懸命な俺の恋人に、感謝しなくては。

俺は安心して、目を閉じていた。
意識は薄れつつあった。






ひと眠りしたら

ふたりで一緒に買い物に出よう。

よもぎの柏餅を探しに。


ヨシキ? ヨシキ?

俺の声は 聞こえているだろうか。







────…今ではすっかり、体ばかり大人の関係になってしまった俺たちだけれど。

出逢ったあの日から変わったことなんて、本当は、何ひとつないんだ。








2017年5月5日 こどもの日。




今年も、東京の空は快晴。











《END
遅くなってごめんね!
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