…何でも欲しいもの持ってきていいよ。
そう言ってヨシキを店に放った。

「わあ~い!」

ヨシキが階段を駆け上がってく。

しばらくぶりに、ヨシキの好きな雑貨屋(って言うのかな?)に来ていて。
我が財布も今日は潤っていることだし、とりあえずヨシキが欲しがるものは買ってやろうと思ってた。

オレは適当に、一階でベッドの上に掛けるマルチカバーとか、キッチンに敷くラグマットなんかを物色していた。
それからヨシキのための冬物のあったかいバスローブ…。

けっこう夢中になって見ていたら(特にバスローブはね)、ヨシキが不意に袖を引っ張った。

…ああ、ごめん、気付かなかった。
「決めたよ!」
…なに?
「これ」

そう言って彼が差し出したのは、PN社の「クリームソープ」ふたつだった。
ひとつはミントの香りので、もうひとつはレモングラス。

…え?これ?
「うん!」
…これだけでいいの!?
「うん!」
ヨシキは2個のせっけんを手に乗せて、本当に嬉しそうなのだった。

…わかったけど…他にはいらないんだね?

念を押す。

「うん!これ買って?」

ヨシキがちょっぴり首を傾げて、夢見るように思いっ切りの笑顔で話す。
「これでね~え、体洗ってもらうんだよ~ぉ♪」

その様子を見ていたオレは、“洗ってもらうって誰にだよ?”というツッコミで吹き出しそうになるのを必死にこらえなければならなかった。

…そうだね、ヨシキがミントとレモンの匂いになるね、最高だねぇ。
「でしょでしょ?早くお風呂入りた~い!」


レジで会計を済ませて。
このひとは本当に、値段がどうこうじゃなくて、ただ欲しいものが欲しいんだなあ、と改めて感動しながら店を出た。
オレは赤みがかったワイン色のバスローブの包みを抱えて。


もう、街路樹のハナミズキの葉が、わずかに色付き始めている。


《おわり》