『夢想と薔薇の日々 (Days of Rêverie and Roses)』は、あくまでもフィクションであり、実在する人物や事件とは一切無関係です。「夢想」は個人が有する自由な権利ですが、現実は現実としてきちんと区別なさったうえでお読みください。くれぐれも混同されないよう、よろしくお願いいたします。尚、当ブログ内の文章や作品の、無断転載・引用・コピーを固くお断りいたします。
一年で最も昼が長い日だというのに。
俺とヨシキは、朝目覚めてからずっと、心地よいベッドでイチャついていた。
起きて口にしたものと言えば、俺が急いでつくったスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチに、アイスティーだけ。
ヨシキは数度のオーガズムを重ね、少しぐったりしていた。
うつ伏せのまま、軽く俺にもたれて横たわっている。
すでに、午後のしたたるようなまぶしい空気が、部屋中に充満していた。
俺はため息をついた。
…長い昼をムダにしちゃってるな。家のこと何にもしてないよ。
そうぼやいたら。
ヨシキは「何言ってんの?」と、驚いたような顔をして体を起こした。
「いちばん大事なことしてるんじゃん」
彼にこう言われて、俺は、あぁそうか…と妙に納得してしまったのだけど。
肘をついて腹ばいになったヨシキの背中に、自分の手を沿わせる。
肩からお尻の方へ向かって、ゆっくりと撫でていく。
まるでネコ科の猛獣のように、美しくしなやかな体。
けれど、俺の手が腰の上辺りまで降りると、ヨシキは必ず、嫌がって身をよじるのだった。
「やめて~💦」
…なんでー?気持ちいいでしょ。
「くすぐったい」
…そういうところって、強い性感帯なんだよ。
「ウソだぁ」
…ほんと。
「どうせトシは、おれのこと全身性感帯とか言うもん」
…ま、そうだけど。笑。
今度は、ヨシキが、俺の背中に腕を絡ませて抱きついてくる。
「ねぇ。」
…ん。
「今日ってさ。…父の日でしょ」
…え?
すっかり忘れていた。
…そうなの?今週だった?
「もぉ~ぉ、カレンダーに疎いんだからぁ」
…ごめん。えーと、何もしてあげれることはないよ。
焦って言ったら、ヨシキが吹き出した。
「わかってるよ💦そんなつもりで言ったんじゃないって」
…じゃ何?
「教えてあげただけぇ」
…そ、、っか。
なんだ、本気で焦った。
よくよく考えたら、父の日に俺が彼にしてやることなんて、なくて当然じゃないか。
…ヨシキ。俺もね、いいこと、教えてあげるよ。
「なぁに?」
ヨシキは興味津々で訊いてきた。
…今日、日食がある。
「ええ?知らない。ほんと?」
…うん、本当。
「いつ!?まだ終わってないの?」
…夕方。部分日食。
「み、見れるかな?」
…この天気ならね。きっと。
梅雨の晴れ間というのだろうか。
今日は朝から太陽が照っていて、大気も湿気が少なく乾いている。
…夏至の日の部分日食は300年ぶりくらいらしいよ。
「見たい!」
…うん。見れるといいね。これを逃すと800年後だっていうから。笑。
「!!!」
ヨシキの反応に、あはは、と笑いながら、俺は彼の体を抱く。
ふたつの熱が、密着して、交差する。
「楽しみだなぁ♡」
…うん。。。
ヨシキと見た日食というと、2012年の金環日食を思い出す。
あのときも我が家は大騒ぎだったけれど、今日もなかなかに凄まじい。
夏至、父の日、日食、おまけに大安が重なるという、実にお祭り気分を掻き立てられる一日なのだ。
…このまま晴れてるといいんだけど。
ヨシキにさりげなくキスをする。
唇が乾いて熱い。
興奮しているのかな。
日食、見れますように。
心から祈る。
他でもない、ヨシキが、望んでいるからだ。
◇
夏至という日は、俺にとっては殊更特別だった。
今日を過ぎたら、だんだんともう昼の光よりも、夜の闇が長くなってゆく。
ただ、そんなくだらない俺の憂鬱なんて、今は、彼に伝える必要も意味もなくて────。
《END》
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